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【みおとあおい】土を育てる。第5章:まず一鉢。新しい培養土で始めてみよう

【みおとあおい】土を育てる。

――土を見ながら、少し整える。――

第5章:まず一鉢。新しい培養土で始めてみよう

――最初から、土を配合しなくて大丈夫――

みおは、園芸売り場の前で立ち止まった。

赤玉土。

鹿沼土。

腐葉土。

堆肥。

肥料。

大きな袋が、棚の上から下まで並んでいる。

「……土づくりって、こんなに買うものがあるの?」

隣にいたあおいが、みおの視線を追った。

「全部は、いらないよ」

「でも、良い土には、水と空気が必要でしょ?」

「うん」

「肥料はご飯で、土づくりはお家づくり」

「うん」

「じゃあ、それを全部そろえて、私が配合するんじゃないの?」

あおいは、棚から一袋を手に取った。

袋には、野菜用の培養土と書かれている。

「最初の一鉢は、これでいいよ」

「……もう混ざってるの?」

「そう。まずは、育てるところから始めよう」


最初から、土の専門家にならなくていい

家庭菜園を始めようとして、最初に土の配合で止まってしまう人は少なくありません。

赤玉土を何割。

腐葉土を何割。

肥料は何グラム。

石灰は必要なのか。

まだ一株も植えていないのに、覚えることだけが増えていきます。

「間違えたら、育たない気がする」

みおが言った。

「だから、最初は条件を減らすんだ」

新しい市販培養土は、基本的には、表示された用途の植物をそのまま育てられるように材料が配合されています。

水の抜け方。

水の持ち方。

空気の入り方。

そして商品によっては、育ち始めに使う肥料も入っています。

もちろん、製品ごとに中身や性質は違います。

それでも初心者が最初から複数の資材を量って混ぜるより、迷う場所をずっと少なくできます。

最初の目的は、完璧な土を作ることではありません。

まず一株を、育て始めることです。


培養土は「土の完成品」に近い

「買った培養土にも、腐葉土を足した方が良くない?」

みおは、もう一度棚を見た。

「良さそうなものを足したら、もっと良くなりそう」

「最初は、足さなくていいよ」

「えっ」

「せっかく整えてある配合を、変えてしまうから」

新しい培養土は、土づくりの材料というより、すでに配合された製品です。

料理にたとえるなら、小麦粉や塩を一から量る段階ではなく、ひとまず食べられるところまで整えられたもの。

そこへ「体に良さそうだから」と、別の材料を次々に足せば、元のバランスが変わります。

腐葉土も、堆肥も、肥料も、役に立つものです。

でも、役に立つものは、いつでも足せばよいものではありません。

整っているなら、まずそのまま使う。

これも、土を見ながら少し整えるための大切な判断です。


袋の表で、三つだけ見る

「培養土なら、どれでもいい?」

「そこは、袋を少し見よう」

最初に確認するのは、三つだけで大丈夫です。

① 何を育てるための土か

野菜やハーブを育てるなら、「野菜用」「花と野菜用」など、育てたいものに合う表示を選びます。

用途が合っていれば、最初の迷いを減らせます。

② 肥料が入っているか

袋に「元肥入り」などの表示があれば、植えつけ時の肥料があらかじめ配合されています。

その場合、最初から別の肥料を重ねて入れる必要はありません。

肥料が入っていない製品なら、袋に書かれた使い方を確認します。

③ 使い方に特別な指定がないか

そのまま使う製品なのか。

ほかの土と混ぜて使う製品なのか。

商品によって違うため、袋の説明を一度だけ見ます。

「全部の原料名を覚えなくていいの?」

「最初はね。何用で、肥料が入っていて、どう使う土か。それだけ分かれば始められるよ」


鉢は、底に穴があるものを

培養土を選んだら、次は鉢です。

ここでも、最初に覚えることは一つだけ。

鉢の底に、水が抜ける穴があること。

「穴がない方が、水がこぼれなくて良さそうだけど」

「余分な水まで残ってしまうよ」

第3章で見たように、根っこには水だけでなく、空気も必要です。

水やりのあと、余分な水が下から抜ける。

水が抜けたすき間へ、空気が戻る。

鉢底の穴は、その流れの出口になります。

穴のない容器を外側の飾りとして使う場合は、中に底穴のある鉢を入れ、たまった水を残さないようにします。

「お家には、出口もいるのね」

「水の出口が、空気の入口にもなるからね」


土は、鉢いっぱいまで入れない

みおは、鉢へ培養土を入れ始めた。

縁のすぐ下まで来たところで、あおいが声をかけた。

「少しだけ、上を空けよう」

「土が少ないと、もったいなくない?」

「水を受け止める場所がいるんだ」

鉢の縁ぎりぎりまで土を入れると、水やりのたびに水や土が外へ流れやすくなります。

そこで、鉢の上部に少し空間を残します。

この空間は、ウォータースペースと呼ばれます。

難しい名前は、覚えなくても大丈夫です。

水を注いだとき、一度受け止められる余白を残す。

まずは、そのイメージで十分です。

みおは、入れすぎた土を少しだけ袋へ戻した。

「最初から、少なめ」

「ここでも同じだね」


新しい培養土は、観察の基準になる

新しい培養土で始める理由は、簡単だからだけではありません。

これから土を見るための、最初の基準にもなります。

袋を開けたとき、どんな手触りだったか。

水をあげると、どんな速さで染み込んだか。

鉢の底から、どう水が出てきたか。

一日たつと、表面はどう乾いたか。

水を含んだ鉢と、乾いてきた鉢では、持ったときの重さがどう違うか。

「この感じを、覚えるの?」

「暗記しなくていいよ。何度も見ていると、少しずつ分かってくるから」

最初から庭土を自分で配合すると、植物の変化が、土の配合によるものなのか、水やりによるものなのか、見分けにくくなることがあります。

新しい培養土から始めれば、最初の条件を少し減らせます。

すると、水のやりすぎ。

乾かしすぎ。

日当たり。

植物の変化。

一つずつ、見やすくなります。

新しい培養土は、正解を買うためのものではありません。

土を見る目を育てるための、最初の基準です。


一鉢なら、失敗も小さくできる

「せっかく始めるなら、三鉢くらい並べたいな」

みおは、売り場の鉢を見渡した。

「並んでいた方が、かわいいし」

「かわいいね。でも、最初は一鉢でもいいよ」

一鉢なら、水やりの変化を追いやすい。

置き場所を変えやすい。

困ったときに、原因を考えやすい。

そして、うまくいかなかったとしても、戻りやすい。

小さく始めることは、気持ちを小さくすることではありません。

失敗を、観察できる大きさにすることです。

一鉢の土が乾くまで待つ。

葉が一枚増えるのを見る。

水をあげた翌朝に、鉢を持ってみる。

その小さな繰り返しが、次の一鉢を育てる判断になります。


まずは、育て始めよう

みおは、培養土の入った鉢を両手で持ち上げた。

思っていたより、軽い。

「庭の土とは、ずいぶん違う」

「まずは、その違いが分かれば十分だよ」

「まだ、良い土を作れてないけど?」

「今日は作らなくていい」

あおいは、鉢の中をのぞいた。

「新しい培養土で、一株育ててみる。水をあげる。乾き方を見る。植物を見る」

「それも、土づくり?」

「うん。土を知るところから始まってる」

最初から、すべての資材を理解しなくていい。

最初から、自分だけの配合を作らなくていい。

まず一鉢。

用途に合った新しい培養土を、そのまま使ってみる。

そして、育てながら見る。

水がどう入るか。

どう乾くか。

根の上で、植物がどう変わるか。

土づくりの最初の一歩は、土を上手に混ぜることではありません。

一鉢の中で、土と植物の変化を見始めること。

みおは、空の鉢ではなくなった小さなお家を見つめた。

ここからなら、始められそうだった。


※市販培養土は、用途・原料・肥料の有無・使い方が製品によって異なります。「培養土」という名前だけで判断せず、育てたい植物に合う表示と、袋に記載された使用方法を確認してください。また、未開封でも長期間の保管状況によって状態が変わることがあります。


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