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寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」 第5回 イタリア・ナポリ篇(11)

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(11)“ナポリを見て死ね”の丘で絶句する


ナポリ市街地図


 トレド駅まで戻り、マルティナ部屋から歩いてすぐの始発駅アウグステオ駅からケーブルカーに乗って終点フーガ広場駅下車徒歩15分ほどの丘に建つ、サンテルモ城へ。マルティナ部屋の観光マップに “ナポリを見て死ね” といえばここからの景色とあったのだ。
たいした期待もなく、ケーブルカーに乗ってみたかったのと、夕方の街をぶらつきたい程度の薄い動機しかなかったのが、いざ城の展望台に立つと、これを見るためにナポリに来たのだ、と絶句させられるような景色だった。

なんという夕景だろう。左手からギザギザした山頂シルエットもくっきりのヴェスヴィオ山、ナポリ湾、その先の半島ににじむ灯りはソレントだろうか。足元にサンタルチア港、湾内に浮かぶ大小さまざまな船のライト、はるか沖にかすむカプリ島、イスキア島の島影が、沈みゆく夕陽のオレンジの残照に照らされていた。一度見たら忘れられない完璧な構図。
須賀敦子さんが「テラスからカプリ島とヴォメロの丘とサンタ・キアラの直線的なゴシック建築の側面が見える」(須賀敦子「ナポリを見て死ね」から抜粋)とスケッチした、ナポリ在住時代のアパートから見た景色もこんなふうだったろうか。

 その場の誰もがそうしていたように、私も目の前の夕景をあらゆる角度から脳裏に焼き付けようと展望台の端から端まで行ったり来たりし、放心状態のまま手すりから身を引き剥がすようにして帰路についた。

 城のお膝元にあたるヴォメロ地区『ナポリの物語 1~4』でもしばしば登場したナポリの山の手。リラとエレナが育った “地区” とは対照的な場として描かれたエリアをケーブルカー沿いにゆっくり下る。

そこはかとなく絵になるケーブルカーの駅。ちょこっと乗るだけでワクワクする
サンテルモ城から見る夕暮れのナポリとヴェスヴィオ山

  下り坂の途中から、孫のお迎え帰りらしきワンコ連れの男性と歩調が重なった。だっこをせがむ孫に、自分で歩いて(雰囲気訳)などときびしめ対応していた男性が根負けし、だっこされた女の子がパッとこちらを見た大きな勝ち気な目と私の目があった瞬間、以前どこかでその目に会ったことがあるような、異国の旅ならではの甘いデジャブが込み上げた。
孫を抱きあげてからの男性の足取りは意外と早く、みるみる遠ざかる2人と1匹の頭上をムクドリの大群がざーっと横切った。旅の味わいはなんでもない一瞬一瞬にこそあるのかもしれない。

明日ナポリ最終日の訪問先は、サンテルモ城からナポリ湾を目にした瞬間に決めていた。その晩ベッドにもぐりこむ前にスマホから「アマルフィーコースト1日乗り放題」フェリーチケットを申し込んだ。

ヴォメロの丘で出会ったおじいちゃんと孫とわんこ。一瞬の交錯が心に残る

イタリア・ナポリ篇(12)へつづく

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