中3娘、大雪の進軍!いざ本陣へ斬り込め!〜本命高校へ〜
前日の国立入試で、娘は完全に打ちのめされていた。
そして翌朝、窓の外は一面の銀世界だった。
それでも今日は、本命高校の入試日。
昨晩、
国立入試での失敗を引きずったまま、
娘は塾へ向かった。
塾長先生には、
きっといろいろと愚痴っただろう。
でも、
事前に私からメールで状況を伝えてある。
塾長先生は、娘が来る前から、
どう対処するかを
考えていたのだろうと思う。
この年は、「45年ぶり」と言われるほどのドカ雪が降った日があった。
その日も、
日中から空はどんよりと曇っていた。
予報どおり、雪が降り始めた。
そんな中、塾長先生から、受験生全員の親に向けてメールが届いた。
今日はもう勉強はいいから、
ゆっくり休みましょう。
不安になったら、
今までやってきたテキストや
教材を積み重ねてみよう。
こんなにやったんだ。
だから、自信を持って行け!
私は、そのメールを何度も読み返した。
「腹をくくれ!!」
そう塾長先生に言われてから、3か月。
我武者羅に、
走って、
走って、
走ってきた。
確かに、
もうこれ以上やれることはない。
そう思ったら、
少しだけ私も落ち着いた。
娘も、
塾から少し落ち着いた様子で帰ってきた。
本命高校の入試当日。
朝、
ベランダから見えた景色は、
白銀だった。
娘は、
足元の悪い雪道を駅へ向かった。
イヤフォンからは、
大好きなアーティストが歌う
前向きな曲が流れている。
ところが。
駅に着いた途端、
娘から電話がかかってきた。
「上履き忘れた!」
……。
おいおい。
よりによって、今日ですか。
パパが慌てて駅へ向かい、
上履きを届けた。
最近、パパにも冷たい娘なのに。
パパは駅まですっ飛んでいった。
目指す学校は、急な坂道の上にある。
ローファーを履いた娘は、
雪道を滑らないように、
一歩一歩、
白い息を吐きながら
踏みしめて進軍する。
校門の前には。
傘を傾け
雪の中に佇む塾長先生の姿があった。
娘に最後の激励をするために、
朝早くから、
そこで待っていてくれたのだ。
娘は、
この朝、この時、
大勢いる同じ塾の生徒の中で
塾長先生を独占できた栄誉を胸に
静かに校舎へ入っていった。
全ては
この日のために…。
五教科の入試を終え、
娘が家に戻ってきた。
靴を脱いで家に入るなり、
リビングで――
行き倒れた。
顔色が悪く具合が悪そうだった。
「胃が痛い……」
娘は腹部を押さえている。
制服のスカートの丈は、相変わらず短い。
この雪の中、
さぞかし底冷えしたことだろう。
完全なストレス性胃炎。
胃痛はこれまでも経験している
胃薬を飲ませ、布団をかけた。
ほんの少しまどろむと、
娘はスッと立ち上がった。
身支度を整えると、家を出ようとする。
「どこへ行くの!」
「塾」
「こんな天気が悪くて、
胃も痛いのに、やめなよ!」
そんな私の説得を聞くような子ではない。
また娘はカバンを抱えると、
雪の中を急ぎ足で塾へ向かった。
いったい、何のために塾へ行くのか。
この時の私は、理由が分からなかった。
塾では、
五教科の共通問題の答え合わせがあったのだ。
公立高校を受けた子たちが、
続々と塾へ集まってくる。
そして、答案を見ながら、
得点が合格ラインに届いているか。
そこを塾長先生が判断する。
娘の五教科の得点は、
ギリギリだった。
塾長先生から見て、
太鼓判を押せるような状態ではなかったらしい。
つまり――
本当の勝負は、
次の、高校ごとの独自テスト。
まだ、何ひとつ終わっていない。
娘は、
シクシクと痛む胃をさすりながら
家へ戻ってきた。
翌日は週末だった。
本命高校の受験は、
いったんここで休止となる。
翌月曜日に持ち越される。
けれど、
この日には、
もう一つ大事な出来事が待っていた。
一昨日受けた、
国立の高校の合格発表だ。
本来なら、
合格発表は校内に掲示される。
ところが前日の大雪で
交通機関が乱れていたため、
急遽、ネットでも確認できるようになったと
学校のホームページに告知された。
今では当たり前になった
ウェブでの合格発表。
でも、
当時の私には、
それがとても画期的なことに思えた。
私と娘は、発表の時間まで家で待機することにした。
発表の時間が来た。
私は少し離れたところで、
娘がパソコンの画面をスクロールするのを見ていた。
受験番号が並んでいるページを、
娘がスクロールしていく。
スクロール。
スクロール。
…娘の手が止まった。
「あ、あったよ、ママ!!」
私は慌てて娘のところへ駆け寄った。
受験票と画面を見比べる。
近寄ってきた息子にも、
番号を確認してもらう。
間違いない。
合格していた。
その後、3人でハイタッチ。
あんなに「無理だ」と言っていた。
自分では、
失敗したと思っていた国立の入試。
それなのに――
娘は、
国立高校への切符を手に入れた。
これで、
万が一本命に落ちてしまっても、
併願校の私立へ行かずに済む。
少しだけ、
娘の心にも余裕が出ただろう。
崖っぷちな気分ではなく、
平静を保って、
次の独自問題入試に挑める。
私は、
ヘナヘナッと
腰が抜けるような心地がした。
本命高校の独自問題入試は、
非常に難しい傾向がある。
「とても、15歳の知識だけで解けるような問題ではない」
塾長先生が、
説明会でそう話していたっけ。
解けない問題を、
自分が今持っている知識を
フル出場させて答える。
それが、ここの独自問題入試だった。
単純に正解か不正解かを問うのではない。
どれだけ、
持っている知識を活用して、
答えに近づけるか。
そこを測る。
そんな、
ちょっと意地悪な問題なのだという。
帰ってきた娘は、
また塾へ飛んで行った。
娘が書いた答案を見た塾長先生は、
どうやら希望を見出したようだった。
それだけの答えを書くことができていた、ということなのだろう。
その翌日は、面接。
塾で何度も何度も繰り返し練習した。
家でも、息子を相手に、
スラスラ喋れるか何度も確認していた。
これで、
ようやく
本命公立高校の全入試が終わった。
あとは、数週間。
結果を待つだけだ。
国立に合格したことで、
少し希望は持てた。
でも、
塾長先生の不安は、
きっと拭いきれなかっただろうと思う。
いくら保険はかけてあるとはいえ、
本命高校の受験を最後に決めたのは、
ほかでもない塾長先生だった。
あの時、
「腹をくくれ!!」
と言って、娘をこの受験へと送り出した。
だから――
不合格であっていいわけがない。
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我が家の子育てを最初から読むなら
夫婦ともに高卒。
教育に詳しかったわけでも、特別な教育方針があったわけでもありません。
悩んで、失敗して、迷いながら二人の子どもを育て、結果的に二人とも慶應大へ。
我が家の子育ての原点を書いた記事です。
