出陣した中3娘。戦場でまさかの迷走。国立入試で大混乱。
併願先の私立高校の合格発表の日。
発表を見に行くのは、私だった。
テントの下で、
さらりとA4サイズの封筒を渡された。
その場で封筒を覗いてみる。
「理数コース 合格」
と書いてあった。
併願先なので、よほどのことがなければ合格するだろうと思っていた。
だから、
「フムフム」
くらいの気持ちだった。
学級閉鎖で休みになり、
母に預けていた息子を迎えに、
母のところへ向かった。
この日は、
もう一つ大事なことがあった。
中3の娘は、
国立の大学付属高校の入試を受けていた。
そろそろ帰ってきた頃だろうと思い、
娘に電話をした。
「おめでとう。合格でしたよ」
すると、
「あぁ、そう」
……。
ずいぶん淡々としている。
そこで、
「どうだった? 今日の手ごたえは?」
と聞いてみた。
すると、
「ヤバい」
と言う。
「難しかった?(笑)」
と聞くと、
「笑えないくらいヤバい……」
その声を聞いて、
なんとなく異変を感じた。
娘は、もともと
「出来たよ!」
と言うような子ではない。
学校の定期テストでも、
塾の模試でも、
手ごたえがあった時でさえ、
結果が出るまではポーカーフェイス。
そんな娘が、ここまで言う?
「まぁ、
気持ちを切り替えて、明日の準備ね」
そう言って電話を切った。
けれど。
私はすぐに家へ帰る気がしなくなってしまった。
娘も、一人でいたいかもしれない。
それに私自身、
どんな顔をして娘に会えばいいのか
分からなかった。
結局、夕飯の時間まで帰れなかった。
その間に。
私は塾長先生へメールをした。
今日の入試でかなり動揺しているようだということ。
そして。
明日の県立高校の本番に、
メンタルの部分で影響が出ないか
心配だということ。
そのフォローをお願いした。
もちろん、
「私からこういう連絡があったことは、娘には内緒にしておいてください」
ともお願いした。
ほどなくして、塾長から返信が来た。
「今日、これから塾へ来た時の様子を
見て、また連絡します」
もう、
私にはどうしてやることもできない。
先生にお願いするしかなかった。
重い足取りで、自宅へ戻った。
すると、娘は普通に学習していた。
顔色を見ながら、
「そんなに難しかったの?」
と聞いてみた。
すると、娘が話し始めた。
「なんか、もう駄目。
もう諦めて、あそこは捨てる!」
「一体どうしてしまったの?
何が原因なの?
問題が解けなかったの?」
「そこからバスに乗って、
JRの駅までは絶好調だったの。
でも、電車が満員電車で混んでいて、
途中で気分が悪くなってきちゃって。
あぁ、女性専用車両に乗るんだった……
って思った。」
「たった20分ちょっとがきつかったの?」
「うん。
胃のあたりがムカムカしてきちゃって、
気持ち悪くなっちゃった。」
「それで?」
「その電車で気分が悪くなって、
ちょっとヤベーと思いながら、
一時間目の国語はそこそこにやって。
二時間目の数学が、すごくヤバかった。
難しかった。」
ここまでは、まだ分かる。
問題が難しかったのだろう。
でも、その後も続いた。
「そのあとの休憩時間にトイレに行ったの。
ヤバいな~と思いながら
トイレから教室に戻ったら、
自分の教室と違う教室だったの。
前のドアから入って、気がついて、
そのまま後ろのドアから出て、
自分の教室に戻ったの。」
……。
「それで、
なんか恥ずかしくて、おろおろしちゃって。
一番得意の英語が始まったのに、
もう、
いつもみたいにペンが進まなくて。
いつもならしないような書き損じをしてしまったり、
答えの欄を間違えて書いてしまったりして。
余計にオロオロしてしまって……。」
娘は、
自分でもどうしてしまったのか
分からないという顔をしていた。
「なんか、変なんだよ、今日の私。
テンパりすぎだよ。
もうダメだ。無理だ……」
そう言って、娘はうつむいた。
私は、言葉が出なかった。
ずっと、娘のことを
「可愛げがない」
と思っていた。
反抗期真っ只中。
こちらが何か言えば嫌な顔をする。
用事がなければ、
こちらから話しかけることもなくなっていた。
そんな娘を見ていたら、
ふと、違う姿が見えてきた。
小さな幼女のように、頼りなく見えた。
まだ15歳なのだ。
15歳の女の子が、
これだけの重圧を背負っている。
学力だけなら、きっと心配はない。
でも、今は
緊張と、
今日の入試での動揺とで、
気持ちが追いついていない。
「今日の入試は、
明日の本番に向けての叩き台だと
思うようにする!」
と、
何とか気持ちを切り替えようと
痛々しいほど
自分で自分を鼓舞してる。
でも。
明日の県立入試に向けて、
まだ心の準備が追いついていない。
今にも溺れてしまいそうなくらい、
アップアップしているように見えた。
併願先の高校には合格した。
理数コース。
けれど、
娘は最初から、
そこへ行きたいと思って受験したわけではない。
あくまでも滑り止め。
だから。
「あぁ、あの私立、行きたくないな……」
娘が一人で呟いている。
私だって、同じことを思った。
もう二度と、この高校へ足を運ぶことがありませんように。
そう祈りながら、帰ってきた。
明日は、本命高校の五教科の入試。
その翌日は、高校ごとの独自テスト。
そして、その翌日が面接。
本命高校の受験は、ここから三日間連続で続く。
そして、
今日受けた国立高校の合否発表は明後日。
もし合格していれば、本命三日間も、
少しは楽な気持ちで受けられる。
でも、もし不合格だったら――。
本命県立高校の合格発表は、
さらにその先。
二週間も、
じれじれしながら結果を待たなくてはならない。
なんだか、拷問みたいだ。
私はもう、
「頑張って」と言えなかった。
だって。
娘は十分すぎるほど頑張っている。
だから、ただ祈るしかなかった。
どうか、神様。
あんなに頑張った娘に、ご褒美をください。
そして私はというと――
吐き気がひどくて、とうとう安定剤を飲んだ。
娘の受験なのに、
母親のほうが先に潰れそうだった。
そして翌日は――
いよいよ、本命高校の入試だった。
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我が家の子育てを最初から読むなら
夫婦ともに高卒。
教育に詳しかったわけでも、特別な教育方針があったわけでもありません。
悩んで、失敗して、迷いながら二人の子どもを育て、結果的に二人とも慶應大へ。
我が家の子育ての原点を書いた記事です。
