
中国で進むAI×クルマ「製造・運転・購買」の再定義|今週のCHINA CASE Deep Dive
[無料]週刊中国自動車業界ニュース解説
2026年10月19日~2026年10月25日
動画の内容を少し編集してレポート化したものです
時速100kmで走っている時、もし突然ブレーキが故障したらどうなるだろうか。
想像するだけでも恐ろしい。しかし、駆動用モーターを緊急時の減速に利用し、車両を停止させるという新しい制御技術が登場している。
一方、工場では、人間がAIに言葉で指示するだけで、複雑な品質検査の工程を組み立てようとする取り組みが進んでいる。
さらに車内では、メーカー独自のAIとスマートフォンのシステムが共存し、限られた計算能力でも高度な運転支援を実現する技術が量産車へ搭載され始めた。
中国自動車産業で起きているのは、AIによる便利な機能の追加だけではない。
クルマをどう作り、どう動かし、そして人々がなぜ購入するのか。
その仕組み全体が変わり始めている。
工場のAIは、従来のソフトウェアを捨てない
まず注目したいのが、自動車が道路に出る前の製造工程である。
中国の3D・AI画像検査企業、蘇映視(INSNEX)は、自然言語を使って工場の検査工程を構築するという技術構想を示している。
製造業の品質検査では、極めて高い精度と再現性が求められる。
例えば電池や半導体、電子基板の製造では、微細な欠陥を見逃すことが製品の性能や品質に影響する。
蘇映視によれば、同社の創業当時に求められていた検査精度は40μm程度だったが、近年は1μm、さらにはナノメートル領域への対応が求められるようになっている。
ここで疑問が生まれる。
人間の言葉を理解する生成AIが、どうやってマイクロメートル単位の精密な検査を実現するのだろうか。
答えは、AIが直接すべての検査を行うわけではない、という点にある。
蘇映視が目指しているのは、従来の産業用ソフトウェアをそのまま基盤として残し、その上にAIを組み合わせる方法である。
例えばエンジニアが「この部分の検査条件をもっと厳しくしてほしい」と指示する。
AIはその言葉を理解し、既存ソフトウェアが持つ機能を組み合わせて、必要な検査工程を構築する。
精密な画像処理や検査条件の管理は、従来のソフトウェアが担う。
AIは、人間と複雑な検査システムをつなぐ役割を果たすのである。
AIは自由に動き、ソフトウェアは正確さを守る
この関係は、音楽に例えると分かりやすい。
従来の産業用ソフトウェアが、正確なリズムを刻み続ける演奏の土台だとすれば、AIはその上で柔軟に歌うボーカルのような存在である。
AIが自由に動く部分と、絶対に守らなければならない部分を分ける。
工場では、検査条件が担当者によって変わったり、設備を引き継いだ際に工程を再現できなくなったりしては困る。
そのため、AIが自由にプログラムを生成するだけでは、製造現場の要求を満たせない。
重要なのは、AIの柔軟性と従来のソフトウェアの再現性を組み合わせることだ。
ただし、蘇映視が示した自然言語による工程構築は技術開発の方向性であり、1μmの検査工程を自然言語だけで構築し、安定稼働させた実績が示されたわけではない。
それでも、工場におけるAIの役割を考えるうえで重要な発想である。
AIが既存のソフトウェアを置き換えるのではなく、その能力を引き出す。
この考え方は、車内のAIにも共通している。
BYDと理想汽車、AIが異なるシステムをつなぐ
BYDは、車載AIエージェント「迪迪蝦(DiDiXia)」の機能拡張を進めている。
火山引擎(Volcano Engine)の音声認識や質問応答などの能力を取り込み、複数のブランドへ展開する取り組みである。
一つのブランド、一つの車種だけで完結するのではなく、共通するAIの能力を広い製品群へ展開していく。
一方、理想汽車(Li Auto)は、i6の車内で独自AIと外部システムを共存させている。
29インチの大型画面では、メーカー独自のシステムに加えて、Apple CarPlayなどの外部システムを利用できる。
画面の表示領域を動的に変更し、運転席と助手席で異なるコンテンツを表示することも可能である。
ここで興味深いのは、完成車メーカーがすべてを自社システムで囲い込もうとしているわけではないことだ。
独自のAIを進化させながら、スマートフォンなど外部の仕組みも取り込む。
ユーザーにとって重要なのは、どの企業がソフトウェアを開発したかではなく、必要な機能を自然に使えることである。
工場ではAIが既存ソフトウェアを使いやすくし、車内ではAIと異なるシステムの連携が利用体験を変えていく。
しかし、AIによる変化は画面の中だけにとどまらない。
次に変わるのは、クルマの物理的な動きそのものである。
20 TOPSでも、ガソリン車の運転支援を実現する
中国の自動運転技術企業、馭勢科技(UISEE)は、上汽GMの新型ビュイック・ラクロスに運転支援ソフトウェアを量産搭載した。
注目されるのは、20 TOPSという比較的限られた計算能力で実現していることである。
TOPSは、AI向けプロセッサーなどの演算能力を表す指標である。
中国の自動運転開発では、高性能な半導体や大規模AIモデルを採用し、計算能力を高める方向が目立っている。
しかし馭勢科技(UISEE)は、アルゴリズムの軽量化や計算資源の最適化によって、20 TOPSの基盤で日常的な運転支援を成立させた。
全車速域での先行車追従、車線中央維持、カーブでの減速、大型車と並走する際の位置調整などに対応する。
そして、もう一つの特徴がガソリン車への適応である。
EVでは、モーターの駆動力を比較的素早く制御できる。
一方、ガソリン車にはエンジンと変速機があり、動力の伝達には応答の遅れや複雑な特性がある。
運転支援システムが減速を指示しても、車両がその指示通りに滑らかに反応するとは限らない。
馭勢科技(UISEE)は、こうしたガソリン車特有の条件に合わせて制御を最適化し、減速時のショックや車体の前後方向の揺れを抑える機能を実装したという。
重要なのは、計算能力を増やすことだけがAIの進化ではないという点だ。
限られた計算資源を使い、実際の車両をどこまで正確かつ快適に制御できるか。
そこにも大きな技術競争が存在している。
華為(Huawei)、ブレーキが故障してもモーターで減速する
車両の物理的な制御という点で、さらに興味深いのが華為(Huawei)の「XMCデジタルシャシー」である。
従来の自動車では、駆動と制動は異なる機能として設計されてきた。
モーターはクルマを走らせ、ブレーキはクルマを止める。
しかしEVでは、駆動用モーターを発電機として働かせることで、車両を減速させることができる。
いわゆる回生制動である。
華為(Huawei)のXMCでは、こうした電動駆動システムと車両運動制御を統合し、通常の制動系に異常が生じた際にも、駆動系を利用して減速するという安全性向上の考え方が示されている。
ここで重要なのは、モーターを単純に逆回転させてクルマを止めるという仕組みではないことだ。
車両の走行状態に応じてモーターのトルクを制御し、減速力として利用する。
これまで別々に考えられていた駆動と制動を、統合的な車両制御の中で扱うのである。
ただし、あらゆるブレーキ故障で瞬時に安全停止できることを意味するわけではない。停止能力は車両の構成や故障条件、路面状態などに左右される。
それでも、車両の各システムを統合的に制御することで、従来とは異なる安全対策が可能になり始めている。
ハードウェアの物理法則をAIが変えるのではない。物理的な能力を、ソフトウェアによって新しい形で利用するのである。
問界(AITO)M9 Ultimate、70万元の高級車を誰が買うのか
こうした技術の進化は、消費者がクルマを購入する理由にも影響し始めている。
その一例が、華為(Huawei)と賽力斯(SERES)が展開する問界(AITO)の高級モデル「M9 Ultimate」である。
車両価格は64万9,800元。税金や保険などを含めた購入総額は約70万元、日本円で1,600万円を超える水準に達する。
中国ブランドの自動車としても高額なモデルである。
ところが、ある販売店の報告によれば、購入者の中心は地元の企業経営者や有力者であり、多くがローンを利用せず一括払いを選択しているという。
しかも購入者の90%以上が法人名義だった。
興味深いのは、こうした購入が単なる個人の高級車選びではないことである。
既存の華為(Huawei)関連製品のユーザーが家族向けに買い増したり、経営者同士の紹介で新しい顧客が生まれたりしている。
高級車の購入において、技術への信頼だけでなく、ブランドの成長や企業間の協業関係、人的ネットワークが大きな役割を果たしているのである。
もちろん、これは一店舗の販売実態であり、中国全体の高級車購入者が同じ行動を取っているという意味ではない。
それでも、70万元級の中国ブランド車が、従来の海外高級ブランドとは異なる顧客基盤を形成し始めていることは興味深い。
AIや先進技術は、単にクルマを便利にするだけでなく、そのブランドを選ぶ理由にもなりつつある。
工場で学んだAIが、いつかクルマ自身を変えるのか
ここまでを振り返ると、一つの流れが見えてくる。
工場では、AIが複雑な検査システムを人間にとって使いやすいものへ変えようとしている。
車内では、独自AIと外部システムが連携し、ユーザーの利用体験を広げている。
走行中は、限られた計算能力でも車両の動きを滑らかに制御し、駆動と制動の統合によって安全性を高める技術が進んでいる。
そして販売現場では、こうした先進技術やブランドへの信頼が、購入判断にも影響している。
さらに、その先にはもう一つの可能性がある。
BYDなどが進める工場データの活用やロボットAIの研究が発展すれば、製造現場で蓄積した知識を、将来の車両診断や保守、ロボット制御へ応用できるかもしれない。
例えば、クルマが日々の走行データから部品の異常を早期に発見し、故障する前に必要な整備を知らせる。
さらに、ソフトウェアの問題であれば、更新によって改善できる可能性もある。
ただし、物理的に破損した部品までクルマが自動的に修復できるわけではない。そこには診断、整備、交換、ロボットによる作業など、別の技術が必要になる。
それでも、クルマが自分の状態を把握し、必要な対応を判断する方向は、今後の重要な発展領域となり得る。
これまでの自動車は、工場で製造され、消費者に販売され、その後は整備や修理を受けながら使われる製品だった。
しかしAIが製造、運転、診断、保守を横断するようになれば、その境界は次第に変わっていく。
クルマは単にAIを搭載する製品なのか。それとも、AIによって作られ、動き、使われながら進化していく製品になるのか。
中国自動車産業で進む変化は、そんな未来を考える材料を提供している。
#CHINACASEDeepDive
#中国
#自動車
#モビリティ
#中国モビリティ
#中医学的身体観
#中国モビリティと中医学的身体観
#電気自動車
#EV
#BEV
#REEV
#EREV
#レンジエクステンダーEV
#プラグインハイブリッド
#PHEV
#ハイブリッド
#HEV
#ICEV
#自動運転
#手放し運転
#スマートドライビング
#エンドツーエンド
#E2E
#AI運転
#スマートコックピット
#スマートラウンジ
#AIスピーカー
#AIアシスタント
#AIエージェント
#Case
#スマートカー
#SDV
#AIDV
#AI
#エンボディドAI
#フィジカルAI
#毎日note
#毎日更新
#毎日投稿
#note毎日更新