『Beep21』真・セガハード列伝 ─ マルコン開発物語・第9話─2度目のやり直しから、ついに発売へ─
まえがき
第8話では、富士通高見澤から提案のアナログ入力スティックを採用した第7話に続き、C-01の設計も富士通高見澤に依頼。コラボレーションしながら設計を進めました。拡張機能を追加し、アナログトリガーなどの新規要素も詰めました。及川(敏明)さんのデザインによる特徴的な丸形デザインを採用。製品名をマルチコントローラー、略してマルコンと命名。
一方、任天堂は、NINTENDO64とスーパーマリオ64の発売延期を発表。アナログ入力デバイスの開発とデザインをやり直したことで開発日程が遅れていたマルコンですが、もしかしたらマリオ64と同日発売もできるかも!? このような状況の中、金型加工も開始し、並行して試作品も完成しました。状況は開発フェーズから、徐々に生産体制の構築フェーズへと移りつつありました。
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第9話はその続き。1本の電話から思わぬことが起こります。いよいよ今回で長いシリーズ連載もついに最終回。最後までお付き合いくださいませ。

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第8話までの史実の整理
1995年7月21日
任天堂バーチャルボーイ発売
1995年11月24日
ファミコンスペースワールド'95でNINTENDO64発表
コントローラとプレイアブルなスーパーマリオ64を初公開
1995年11月24日
セガサターン版バーチャコップ、バーチャガン発売
1995年12月5日
NiGHTS開発チームを中心にソフト開発部門でアナログコントローラーの企画が話し合われ、アナログコントローラー「C-01」の開発がスタート。(第1話)
1995年12月中旬
1995年12月末
手作りサンプルを何種類も作成(第4話)
1995年12月14日
任天堂本社にて、NINTENDO64の説明会を開催
1996年1月
1996年1月中旬
ホシデンのアナログ+デジタル一体型ユニットを採用
1996年1月31日
C-01のアナログチャンネル数、ボタン数などの機能決定(第6話)
1996年2月初旬
グリップ型コントローラーのデザイン開発。3Dスキャンして設計開始(第6話)
1996年2月中旬
ホシデンのアナログ+デジタル一体型ユニット、採用断念。設計、デザインもやり直しへ(第6話)
1996年2月20日頃
富士通高見澤からホール素子型アナログ入力スティックの提案(第7話)
1996年2月末
ホール素子型アナログ入力スティックの採用決定(第7話)
1996年3月初旬
1996年3月8日
NINTENDO64発売延期発表。※4月21日から6月23日へ
1996年3月13日
機能的な仕様を確定。ソフト開発側やサードパーティへ情報開示。(第8話)
1996年3月中旬〜下旬
デザイン確定。製品名をマルチコントローラーと命名。
1996年6月23日
NINTENDO64、スーパーマリオ64発売
1996年7月5日
セガサターン「NiGHTS」「マルチコントローラー」発売
試作サンプルの完成(1996年4月初旬)
1996年3月末に設計が完了し、すぐに試作品を手配しました。その試作品が4月初旬についに完成しました。ホール素子と磁石による非接触方式のアナログ方向キーを搭載した、新デザインの試作サンプルです。丸くてかわいらしいコントローラーが出来ました。
ケースはABS樹脂の削り出しで作りました。着色されていないナチュラルなABS樹脂は、クリーム色をしています。クリーム色したふっくら丸いマルコンは、まるで美味しそうなパンケーキのようでした。
(※ABS樹脂は、ゲーム機やコントローラーのプラスチック部品に一般的に使われている樹脂です)
頭の中で、CAD画面上で想像していた物が、ついに実物となり動くようになる。一番ワクワクする瞬間であり、心配な瞬間です。
さあ、操作フィーリングはどうでしょうか。
事前にスタイロフォーム(発泡スチロール)や、デザインモックアップで形状デザインを確認しますが、動かないボタンやレバーを触っても、操作フィーリングは確認できません。実際に動くボタンや、ストロークするレバーを触ってみて、初めてフィーリングがわかります。ちょっとボタンが遠いとか、少しYボタンが低いとか、具体的なことは動くボタンを触ってみないとわからないものです。
試作サンプルを触ってわかったこと
アナログ方向キーは、ふにゃふにゃした操作感ですが、いいんじゃないかなと思いました。
なにしろこれまでに比較できるものが、市販品のコントローラーとしては電波新聞のカブトガニことXE-1Aか、アルプス製アナログ入力デバイスを無理やり搭載した改造コントローラーしかありません。それらと比べたら、このアナログ方向キーのほうが良さそうに思いました。スプリングの強さを上げれば、感触は調整できるので、もっと良くなるでしょう。
ただ、データの出力範囲が少し狭いように感じました。余裕を見てマージンを多めにしてあるためです。デッドゾーンと有効なストロークの範囲のバランスには、ここから調整が必要です。リターンスプリングや、キートップの形状も調整が必要だと思いました。
削り出しの試作品では、厳密なフィーリングの確認はできません。ラバー接点も試作品なので、ボタンのタッチも量産品とは異なります。少しフィーリングが鈍った感じになります。そんな試作サンプルですが、それでもこれまでのセガのコントローラーの感触よりも良くなりそうな感じでした。
試作サンプルが出来上がるまで、組み立て性や操作性が読み切れなかったアナログトリガー。第8話で富士通高見澤と電話とファックスで設計を詰めた部分です。こちらは完璧でした。組み立て性は問題なし。操作力、ストローク、操作に対するデータ出力特性も、問題ないと思いました。
全体のデザインとグリップ形状ですが、ボタンがある右手側のグリップが短いため、最初は右手側に違和感、持ちにくさを感じます。左右でグリップ形状が異なるので、アンバランスな感じもあります。
でもそれは想定内。スタイロフォームで作成した、ボタンが動かないデザインサンプルの時点でわかっていることです。
大事なのはボタンやアナログ方向キーを操作してみて、指が動きやすいかどうか。
どこかに嫌な部分、気になる部分がないか。多少違和感があっても、慣れで解決できそうか。手のひらの、指先の感覚を研ぎ澄ませて確認していきます。
うん。まあ良さそうです。
持ちにくさは最初に少し感じますが、慣れてしまえば操作しにくさは感じません。指の動きを阻害せず、指が動きやすいです。大きな手の人、小さな手の人の意見も聞きましたが、問題なさそうでした。
キートップ形状の研究
試作サンプルができあがったら、確認を予定していたことがあります。アナログ方向キーのキートップ形状です。
製品化されたマルコンは、キートップが凹んでおり、2重円のリブがあります。この形状はしっかり検証しました。キートップの形状は、どのようなものがよいのか。動くサンプルを作らないと、まったく想像できませんでした。

試作サンプルは、キートップが貼りかえられるように作成しました。貼り付けるキートップは、デザインが異なるサンプルを7〜8個用意しました。機構設計担当の伊達(敏範)さんが、デザイナーの及川さんと相談しながら設計したものです。
実際にあれこれキートップを交換して触ってみると、かなりフィーリングに違いがありました。方向性としては大きく分けると3種類です。
■キートップ表面が方向キーの軸心と同心円
キートップの表面形状が、方向キーの軸心と同心円の形状です。この場合は、親指の腹でキートップを転がすような操作になります。まさしく球を親指の腹で転がすような感触です。トラックボールマウスのようです。
スムースで違和感がないのが、逆にそれが違和感。どれくらい方向キーを傾けたのか、親指への感触のフィードバックが乏しいです。手ごたえがない感じになります。
■キートップ表面が凹み型形状
凹んでいるので親指の収まり具合が良く、指と接触している面積が大きい形状です。
一方で、キートップの外周の縁が一番高さがあるので、方向キーを前に傾けたときに外周部が親指の腹に当たります。大きな角度で傾けたら、指の腹に強く当たることになります。しかし角度が小さければ、親指を凹みの中心に乗せたまま、指の可動範囲で動かすことになります。左右に傾けた場合は、指がずり落ちる感じもなくて、収まりがいいです。
■キートップ表面が凸型形状
出っ張っている場合、方向キーを傾けたときに角度が大きいときほど、操作性が大雑把になりやすい形状です。倒しやすいとも言えますが、倒れやすいのです。
キートップのRが小さければ尖ったかたちになり、センター付近での指の腹の当たり具合がピンポイントになります。強く押さえていると、指が痛くなりやすいです。360度操作をすると、指の腹がグリグリされる感じになります。

アナログ方向キーの動作角度との関係から、キートップ形状は凹んでいたほうがいいと判断しました。NiGHTSは360度操作が多いのですが、指の座りがいい形状、サイズがいいだろうという判断です。
この形状は、方向キーの高さ、動作角、グリップ形状などと相互に関係があります。常にこのキートップの形状がベストということではない、ということもわかりました。
それは、右手親指で押すボタンの最適な位置、配置の間隔、表面の形状が、コントローラーの本体形状によるのと同じです。多少違和感があっても、使っていくうちに慣れていきます。万物の最初の違和感は、大部分が慣れで解決します。慣れとは恐ろしいものですが、環境に適応していく人間のすばらしい能力であるとも言えます。それでもできるだけ最初の印象を自然なものにするために、少しでも違和感を減らすために、実際に指を動かして押したり倒したりしてみて、どんな感覚を感じるのか分析していきます。指先の感触、手の声を聞き取っていく感じです。
注意深く聞き取らないと、だんだん自分も慣れてしまいます。慣れないうちに感じ取ることが大事です。
これは、どんな操作系、HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)においても大事なことで、最初は「あれ??」と思うような違和感があっても慣れてしまうと違和感がなくなります。でも本質的には違和感がないほうが良いはずです。応答性とか視認性とか絶対に良いほうがいいのです。
アナログトリガーの研究
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