「バタ足」ではなく「パタ足」でいい。――娘の壁を解析して見つけた、力を抜くという戦略。
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娘が小学生になって最初に感動したのは、登校の風景だ。
幼稚園の頃、バス停まで手をつないで送って行った日々が懐かしい。「行ってきます」と一人で玄関を出ていく背中を見送るたび、私は娘のために奔走したあの日々を誇りに思う。あの積み重ねがあって、今の娘の自立がある。
妻にその感慨を漏らすと、「そうだね」と優しく笑ってくれる。
順風満帆。そう自負していた矢先、娘が小さな壁にぶつかった。習い事の水泳である。
「パパ、バタ足で上手く進めない」
娘からのヘルプ要請。それは、父親としての私の「解析力」が再び試される合図でもあった。 「よし、分かった。今度プールへ行こう」
妻が「は〜い、場所探しとくね」と、夏休みの旅行を兼ねてプールのあるリゾートホテルを予約してくれた。旅先での「バタ足伝授ミッション」の始まりだ。
「不自然」には理由がある
まずは現状把握だ。娘の練習風景を見学しに行った。 プールサイドから見下ろすと、同じ格好の子供たちが大勢いて、正直自分の娘を探すのも一苦労だ。「自分の子は違って見える」という妻の観察眼には、本気で敬意を覚える。
やっと目が慣れ、娘の動きを追えるようになった。 ビート板を持ち、水に浮かぶ姿は様になっている。だが、バタ足を始めた瞬間、派手な水しぶきが上がった。
「力が逃げている」
解析結果はすぐに出た。力が真後ろに伝わっていないため、推進力が得られていない。 仕事なら「一生懸命やっているのに成果が出ない」という状態は、努力の方向が間違っている証拠だ。力めば力むほど水への抵抗は増し、エネルギーだけを浪費する。これはビジネスにおける「空回り」と全く同じ構造だった。原因が分かれば、対策を講じるのは難しくない。
舟のおもちゃで教えた「理屈」
私はまず、理屈を教えることにした。「全ての事には理由がある」と知ってほしかったからだ。
お風呂の時間、プロペラで進む舟のおもちゃを持ち出した。
「ネジを回して、浮かべてごらん」 プロペラを回しながら進む舟を見つめる娘に、私は問う。
「どうして前に進んでいると思う?」 「これが回っているから?」
「そう。この回転がバタ足だ。でも、見てごらん。止まっただろう?」
「うん」 「なぜ止まったと思う?」
「バタ足(プロペラ)が止まったから?」
「そうだね。じゃあ、外でジャンプする時、貴女はどうしてる?」
「足に力を入れて上に跳ぶ」
「その通り。それは地面を蹴って、その力を利用して跳んでいるんだ。だから、バタ足も同じ。上手く後ろに力を伝えないと、前には進めない。理想は、真後ろに力を伝えることだ」
娘は「へぇ〜」と目を丸くしながらも、「難しそう……」と不安げだ。
「大丈夫。あとはプールで実践しよう」
「バタ足」を「パタ足」に変える戦略
夏休み、リゾートホテルのプール。 夕暮れ時、日帰り客が去った後の静かな水面で、特訓を開始した。
娘は顔を水につけて上手に浮かんでいる。だが、バタ足を始めると力が入って足が沈み、体が斜めになってしまう。はたから見れば一目瞭然なのだが、水の中にいる本人に伝えるのは至難の業だ。
そこで、プールサイドのベッドでくつろいでいた妻が、救いの手を差し伸べてくれた。
「映像あるよ、見てみる? 思い出に撮っておいたんだ」
映像を確認した娘が驚く。「本当だ、斜めになってる。でも、どうして?」 「人は力を入れると重くなって沈んじゃうんだ。パパだってそう。パパの泳ぎを見てて」
私は見本を見せた。ゆっくりと、あえて力を抜いて泳ぐ。
「前に進んでる!」 「そう。前に進みたいからと力んで『バタバタ』するのではなく、力を抜いて『パタパタ』と水を叩くイメージ。バタ足じゃなくて、パタ足だね」
「まっすぐ、力を抜いて、パタパタ……」 小声で繰り返しながら、娘が再び水に浮かんだ。 最初はぎこちなかった動きが、やがて滑らかになり、娘の体がスルスルと前に進み始めた。
「やった!! できた!」 水中でハイタッチ。プールサイドの妻を見ると、笑顔で親指を立てて「グッジョブ」と合図をくれた。ミッションコンプリートだ。
親は子の鏡。完璧よりも「挑む姿」を
後日、娘の英語教室の送り迎えを担当した時のことだ。 ネイティブの先生が現れ、娘に「Hello!」「How are you?」とリズム良く語りかける。驚いたのは、娘の対応だった。
「I'm fine!」から始まり、片言ながらも単語を並べて会話を成立させている。その堂々とした姿に、胸が熱くなった。あの時、英語教育に力を入れている幼稚園を選んだ判断は、間違っていなかった。
娘が授業の準備を始めた時、先生が小声で話しかけてきた。流暢な日本語だった。 「パパさん、娘さんは本当によく頑張っています。エクセレントです。そこで一つお願いがあります」 「はい、なんでしょう」 「パパさんも、なんでも良いので英語を使って話しかけてください。それが娘さんの成長に一番繋がります」
私は身構えた。 「でも、外で呼ぶ時、『Come here』なのか『Come over there』なのか、使い分けが難しくて……」 先生は笑って言った。
「どちらでも問題ありません。単語だけでも十分です」
「正解でなくて良いのです」
ハッとした。マネジメントの鉄則は「率先垂範」だ。 上司がリスクを恐れていては、部下は挑戦できない。育児も同じだった。 先生の言葉を聞いて、私は自分の完璧主義が娘の可能性を狭めていたことに気づいた。私が完璧な正解を求めて口を閉ざせば、娘もまた「正解のない世界」を恐れるようになる。娘の未来を濁らせないために、まず私自身が濁りのない「挑戦者の背中」を見せなければならない。
「OK. I'll try.」
それ以来、私は時々、外でも娘を「カムヒヤ!」と呼ぶようになった。 妻に「遠いからオーバーゼアじゃないの?」とツッコまれるが、私は堂々と答える。
「ノープロブレム。正解じゃなくていいって言われたもん」
妻はまた、楽しそうに笑っていた。
編集後記
バタ足を「解析」して見つけた脱力のコツ。そして英語を通じて学んだ、親が挑む姿勢。 効率や正解を求める仕事の癖を少しだけ横に置いて、娘と一緒に「不器用な挑戦」を楽しんでいこうと思います。
皆様のご家庭では、お子さんに「背中を見せる」ために意識していることはありますか? ぜひコメント欄で教えていただけると嬉しいです。
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無力さを知ったあの日から、もっと強く守ると決めた。
頂いたチップは、娘の笑顔を最大化する「仕組み」への投資と、娘への贈り物のために大切に運用します。戦略家パパ、娘のために全力で走ります。