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🪄『箱庭に住む魔女』



町の外れに、小さな丘があった。



その頂上には、一軒の古い家が建っている。


蔦に覆われた赤い屋根。
いつも閉じられている木の扉。


そして、季節に関係なく咲き続ける白い花。


町の人々は、その家をこう呼んでいた。


「魔女の家」


そこには、ひとりの女が住んでいるという。


名前はエマ。


年齢を知る者はいない。


七十年前から住んでいるという老人もいれば、
十年前に引っ越してきた若い女だと言う者もいた。


ただ、不思議な噂だけは共通していた。


――魔女の家には、箱庭がある。



そしてその箱庭には、

この町とまったく同じ町が存在している。



十七歳の少年、ノアには、
三歳年下の妹がいた。


名前はリナ。

よく笑う少女だった。


ところが、ある秋の日。


リナは突然、姿を消した。


学校から帰る途中だった。

鞄だけが川沿いのベンチに残され、
本人はどこにもいなかった。


警察も探した。
町の人々も探した。


けれど、一週間経っても、
一か月経っても、

リナは見つからなかった。



半年が過ぎた頃。

ノアは、奇妙な噂を耳にした。


「魔女の箱庭ではね」


老婆が囁いた。


「死んだ人も、消えた人も、生きているらしいよ」


その夜。


ノアは丘を登った。



魔女の家の扉を叩くと、
すぐに扉が開いた。


そこに立っていたのは、
黒い服を着た若い女性だった。


「リナを探しているのね」


ノアは息を呑んだ。

まだ何も言っていない。


「……どうして知ってる?」


女は答えなかった。


「入りなさい」


部屋の中央に、
巨大なガラスケースが置かれていた。


その中を見た瞬間、
ノアは言葉を失った。


町だった。



自分たちが暮らしている町。


学校。
教会。
時計塔。
パン屋。


ノアの家まである。


すべてが精巧な模型になっていた。



いや。



模型ではない。

小さな人々が歩いている。


小さな車が走り、
煙突から煙が上がっている。


そして――


ノアは見つけた。


「……リナ」


自分の家の前。


小さな少女が笑っていた。

妹だった。



「妹を返してくれ!」

ノアは叫んだ。


魔女は静かに答えた。


「私は誰も奪っていないわ」

「じゃあ、どうしてリナがここにいるんだ!」

「その子が望んだから」


ノアは箱庭を見た。


リナは母と買い物をしていた。

父もいる。

三人とも笑っている。


その光景を見て、
ノアは胸が苦しくなった。


現実では、
父と母はいつも喧嘩していた。



父は家を出ていった。



母は泣き、
リナはいつもノアに言っていた。


「昔みたいにならないかな」


魔女が言った。


「この箱庭では、願った人生を生きられる」

「そんなの偽物だ」

「そうかしら」


魔女は微笑んだ。


「幸せなら、偽物でも幸せではないの?」


ノアは答えられなかった。



そのときだった。


箱庭の中から、
誰かがこちらを見上げた。


ノアは凍りついた。

自分だった。


小さな自分が、
箱庭の中にいる。


リナの隣で笑っている。


「……なんで僕が?」


魔女は答えた。


「妹さんが望んだ世界だから」

「僕まで?」

「あなたのいない幸せなんて、あの子には考えられなかったのよ」


胸の奥が痛んだ。


ノアは初めて気づいた。


妹が失いたくなかったのは、
父でも母でもなかった。


家族だった。


壊れる前の、

家族という形そのものだった。




「リナを戻して」


ノアは言った。


「できますよ」


魔女はあっさり答えた。


「ただし、条件があります」

「何?」


魔女は箱庭を指差した。


「あなたが代わりに入りなさい」


ノアは黙った。


箱庭の中では、


父が笑っている。

母も笑っている。

リナも笑っている。

自分も笑っている。



そこには喧嘩もない。

別れもない。

悲しみもない。



永遠に続く、幸せな家族。



魔女が尋ねた。


「現実へ戻って、傷つきながら生きるのと」


少し間を置いた。


「幸せな嘘の中で、一生暮らすのと」


ノアを見つめる。


「あなたなら、どちらを選ぶ?」



長い沈黙のあと、ノアは言った。



「どっちも嫌だ」


魔女が少し目を見開いた。


「僕は……リナと一緒に帰る」

「帰れば、両親は元には戻らない」

「わかってる」

「妹はまた泣くかもしれない」

「僕も泣く」

「箱庭なら、ずっと幸せなのに?」


ノアは箱庭の中の妹を見た。



そして言った。


「幸せって、悲しいことが起きない世界のことじゃないと思う」


魔女の表情が変わった。


「泣いたり、喧嘩したり、失敗したりして……                それでも誰かと一緒に生きようとすることなんじゃないかな」


魔女は何も言わなかった。


やがて。


箱庭に小さな雨が降り始めた。




翌朝。



ノアは自分のベッドで目を覚ました。

階下から声が聞こえた。


「お兄ちゃん」


飛び起きた。

リナがいた。

半年ぶりだった。


母が泣きながら抱きしめている。

ノアも抱きしめた。


「ただいま」


リナは言った。


「……おかえり」


その日の夕方。

ノアは丘へ向かった。


しかし。

魔女の家はなかった。


そこには古びた石碑だけが立っていた。

苔を払う。


文字が刻まれている。


エマ・ローウェル


そして、その下。


享年十七歳。


ノアは息を止めた。

さらに小さな文字があった。


――家族を失った悲しみに耐えられず、
この丘で生涯を終えた少女。


死亡した年は、

八十七年前。




ノアは町の図書館で、
エマについて調べた。


古い新聞記事を見つけた。

そこには一枚の写真があった。


エマ。

父。
母。
弟。


幸せそうな家族写真。


しかし記事によれば、
エマの家族は事故で亡くなったという。


彼女だけが生き残った。


その後。


エマは小さな模型を作り始めた。


失った家族の家。

町。

庭。

学校。


そして、

家族全員の人形。


新聞にはこう書かれていた。


「少女は毎日、箱庭の家族に話しかけていた」


ノアは理解した。


魔女は、人を箱庭に閉じ込めていたのではない。


あの少女自身が、



八十七年間、

箱庭から出られなかったんだ、と。




数日後。


ノアはもう一度、丘へ行った。


石碑の前に、
白い花を置いた。


「エマ」


風が吹いた。


「あなたも、本当は帰りたかったんだね」


返事はない。


ただ白い花が揺れた。


そのとき。



ノアは気づいた。


石碑の裏に、
新しい文字が刻まれている。


昨日まではなかった。


ありがとう。


そして、その下にもう一行。


箱庭の外は、怖いですか?


ノアは少し考えた。


「怖いよ」


小さく答えた。


「でも……だから、生きてるんだと思う」


風が丘を抜けた。


白い花びらが、
空へ舞い上がった。


その瞬間。


石碑の「エマ」という文字が、
ほんの少しだけ光った気がした。



人は誰でも、
心の中に箱庭を持っている。


あの時、
違う選択をしていたら。


あの人が、
まだ隣にいてくれたら。


あの日に戻れたら。

もっと愛されていたら。

もっと幸せだったら。


私たちは、
存在しなかった人生を想像する。


そして時には、

現実よりも美しい「もしも」の中に、住みたくなる。



けれど。


完璧な世界には、
明日はない。

失敗しない世界には、
成長もない。

別れのない世界では、
出会えた奇跡にも気づけない。


だから人生は、
少しくらい壊れているほうがいいのかもしれない。


泣いた昨日があり、

迷っている今日があり、

まだ何が起こるかわからない明日がある。


それこそが、

箱庭には決して作れないものなのだから。


丘の上には、
もう魔女はいない。

ただ春になると、
白い花が咲く。



町の人は今でも、
その丘を「魔女の丘」と呼んでいる。


けれどノアだけは知っている。

あそこに住んでいたのは、

恐ろしい魔女ではなかった。



ただ、

失った幸せを手放せなかった、ひとりの少女だった。



そして――

もしかすると。



私たちも皆、

少しだけ、

箱庭に住む魔女なのかもしれない。。。💓






💗柊紅葉💗




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夏の名残を感じながらも、

朝晩には涼やかな風が吹くように

なりましたね。💝🍂😌🍂💝

最近、急に秋を感じます。🍁🥰🍁

昨日までは、ほど遠いと思っていましたが、

秋がすぐそこまで、来ています。🥰🍁🍂🥰


皆さん、体調を崩されぬ様、

くれぐれもご自愛ください。💐💝💐


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そして、

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