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「全部自前」の先へ――中国自動車産業、AIV時代の分業を作り直す[2026年9月28日~10月4日]

    [無料]ここ数週間、中国自動車産業ではAIの領域が急速に広がってきた。

    クルマにAIを載せる。

    AIでクルマを作る。

    AIを工場や物流へ広げる。

    そして前週には、自動車、ロボット、地図、物流、エネルギーまでを一つのPhysical AI産業として見る必要がある段階へ入った。

    今週は、その次の問題が浮上した。

    では、その巨大な技術体系を誰が作るのか。

    完成車メーカー自身なのか。

    寧徳時代(CATL)、華為(Huawei)、Momenta、地平線(Horizon Robotics)、元戎啓行(DeepRoute)、卓馭科技(ZYT)のような専門企業なのか。

    それとも、両者の境界そのものがなくなるのか。

    今週のニュースを横断すると、中国自動車産業が「垂直統合か水平分業か」という単純な二択から離れ始めていることが見えてくる。

    必要な技術は自ら握る。

    しかし、すべてを自社で作る必要はない。

    他社の技術を使っても、最終的な製品の定義と統合能力は自分たちが握る。

    AI Vehicle(AIV)時代の中国自動車産業で、「自社開発」の意味そのものが変わり始めた一週間だった。

    「自社開発」はどこまで自社でやればいいのか

    この問いを最も直接的に投げかけたのが、理想汽車(Li Auto)の李想CEOだった。

    理想は電池セルを自社開発し、欣旺達(Sunwoda)や中創新航(CALB)へ製造を委託する。

    PACK、BMS、熱管理、車両制御、クラウドは自ら握る。

    一見すると、「自社製電池」と呼んでよいのか分かりにくい。

    しかし李想氏が例に挙げたのはAppleとTSMCだった。

    Appleは自ら半導体工場を持っていない。それでもApple SiliconはAppleの自社開発チップである。

    重要なのは、誰の工場で作るかではない。

    製品を誰が定義し、設計し、システム全体へ統合するかである。

    Huawei側からも、ほぼ同じ問題に対する別の答えが出た。

    Huawei乾崑スマートカーソリューションCEOの靳玉志氏は、Huaweiがスマートカー事業へ年間190億元以上を投入し、計算資源だけでも70~80億元を使っていると説明した。

    自動運転、車載OS、半導体、AIモデルなどを完成車メーカーがすべて自社開発すれば、本当に安くなるのか。

    巨大な研究開発費を複数メーカーで共有する専門企業の方が合理的な領域もある。

    つまりHuaweiの主張は明快である。

    「自社開発=競争力」とは限らない。

    電池で始まった「脱CATL論」への反論

    この議論が最も激しくなっているのが電池である。

    完成車メーカーがセルの自社開発へ踏み込み、複数サプライヤーへ製造を委託する動きが広がったことで、中国では「脱CATL」が進んでいるとの見方も強まった。

    しかし、工業情報化部傘下メディアは、この見方に異議を唱えた。

    完成車メーカーが電池技術を自ら理解し、設計へ関与することと、CATLなど専門メーカーが不要になることは同じではない。

    むしろAIV時代の電池では、セル単体の性能だけでなく、車両、熱管理、BMS、充電、クラウドまで含めた統合が重要になる。

    OEMが電池へ入り込む一方、電池メーカーも車両との境界へ近づく。

    これは「OEM対サプライヤー」の勝敗ではなく、両者の役割分担が組み直されているのである。

    しかも中国政府は、電池そのものをさらに巨大な国家産業へ育てようとしている。

    2030年までに全固体電池の初歩的な規模化応用を実現し、長寿命電池では1万5000回のサイクル寿命を目指す。

    対象も自動車だけではない。

    エネルギー貯蔵、AI、ロボットなどへ広がる。

    自動車用電池だった産業が、Physical AIを含む次世代機械社会のエネルギー基盤へ変わろうとしている。

    一方でOEMはLiDAR、チップまで内側へ入る

    だからといって、中国OEMが外部調達へ戻っているわけではない。

    むしろ逆方向の動きも同時に進んでいる。

    ZEEKRは、自社製LiDARの月間搭載量を1万4300基規模まで拡大した。

    当初は死角監視など限定的な用途から始まったが、完成車メーカー自身がセンサー領域へ入り込んでいる。

    ADASの「頭脳」ではさらに境界が崩れている。

    中国の運転支援用ドメインコントローラー市場では、BYD自身が大きなシェアを持ち、小鵬(XPENG)や蔚来(NIO)は半導体そのものの自社開発へ進んだ。

    従来なら、センサーはセンサー会社、チップは半導体会社、コントローラーはTier1、完成車はOEM、という役割分担があった。

    AIVでは、その境界が成立しにくくなっている。

    小鵬はさらに、自社開発したTURINGチップを自社車両だけで使うのではなく、斑馬智能と組み、他社向けAIコックピットへ展開しようとしている。

    OEMが自社技術を外販し始めれば、OEM自身がサプライヤーになる。

    ここまで来ると「OEM」と「Tier1」を明確に分けること自体が難しくなる。

    ADASでも「誰が作ったか」が見えなくなる

    運転支援でも同じ変化が起きている。

    2026年8月の中国都市NOA市場では、DeepRouteが急速に搭載量を伸ばした。

    ところが実際の車両を見ると、OEM側がDeepRouteの名前を大きく出さないケースもある。

    完成車メーカーにとって重要なのは、「どこのADASを買ったか」ではなくなりつつある。

    外部のAIを使いながら、自社のデータ、車両制御、UX、ブランドとして一体化する。

    その結果、サプライヤーの技術は製品の奥へ入り、ユーザーからは見えにくくなる。

    一方、卓馭科技(ZYT)はLiDARそのものをE2E型AIシステムの一部として扱い始めた。

    LiDARの性能を単体の測距距離やライン数で評価するのではなく、AIがどのように情報を使うかまで一体で設計する。

    そしてMomentaと地平線HSDの実車比較では、中国ADASの評価軸そのものが変わり始めていることも見えた。

    目的地へどれだけ速く到着するかだけではない。

    加減速の自然さ、車線選択、他車との距離、安心感。

    AIが運転できるかという段階から、「人間がその運転を好きになれるか」という競争へ進み始めている。

    HuaweiとOEMの境界線も作り直されている

    「誰が何を握るのか」という問題が最も激しく動いたのが、Huaweiと自動車メーカーの関係である。乾崑そのものではなく、鴻蒙智行(HIMA)で特に顕著だ。

    問界(AITO)では9月15日、Huawei主導から賽力斯(SERES)主導へ協業モデルを変更する動きが示された。

    ところが、わずか半月後の10月1日には再調整へ入った。

    そして同日夜、HuaweiとSERESは新たな5年間の協力を正式に発表した。

    OEMが主体性を取り戻すことと、Huaweiとの関係を弱めることは同義ではなかった。

    奇瑞汽車の尹同躍董事長が語った智界(LUXEED)の方向も興味深い。

    問界が自立方向へ動く一方、智界はHuaweiとの関係を薄めるのではなく、むしろ両社をさらに深く融合しようとしている。

    さらに尊界(MAEXTRO)では、江淮汽車がHuawei、Stellantisとの三者協力について「協力意向」があることを公式に認めた。

    対象にはマセラティを巡る構想も含まれる。

    中国OEMとHuaweiの協業モデルが、中国国内だけで閉じず、海外ブランドとの再編へ接続する可能性まで出てきた。

    HIMAは「Huaweiがクルマを作る仕組み」という単純なものではなくなっている。

    ブランドごと、OEMごとにHuaweiとの境界線を変える、複数の協業モデルを持つ巨大な実験場になりつつある。

    一汽と広汽は会社を一つにせず「軽く統合」する

    同じことは国有自動車メーカーの再編にも当てはまる。

    今週、大きく動いたのが一汽と広汽である。

    広汽が一汽の保有する一汽トヨタ50%を取得する計画が明らかになり、一汽はトヨタとの直接的な完成車JVから退出する方向となった。

    広汽は一汽トヨタと広汽トヨタ、双方の中国側株主になる。

    しかし、これは単なる「南北トヨタ統合」ではなかった。

    翌日、一汽と広汽は戦略協力枠組み協定を締結。

    中国汽車工業協会も、中央国有企業と地方国有企業による新たな再編モデルとして位置付けた。

    一汽公式アカウントはさらに、将来「年間自動車生産・販売500万台超の産業連合体」を形成するとのCCTV報道を配信した。

    ただし、両社そのものを一つの会社へ統合する話ではない。

    一汽トヨタも広汽トヨタへ吸収されるわけではなく、それぞれの法人やブランドを残しながら、研究開発、調達、生産能力、市場など重複する機能を協調させる「軽統合」が基本となる。

    これは今週の「自社開発」論と実は同じ問題である。

    全部を一つにする必要はない。

    しかし、別々に持つ意味のない機能は共有する。

    企業そのものではなく、能力を再配置する。

    AIV時代の中国自動車再編の一つの形が見え始めた。

    世界モデルは実車走行そのものを代替し始めた

    技術面では、世界モデルがもう一段進んだ。

    哈囉(Hello)系研究チームの「HelloWorld」は、自動運転AIが学習する道路世界をAIで生成する。

    しかも単なる前方カメラ映像ではない。

    7台のカメラとLiDARまで含め、実際の自動運転車に近いセンサー世界を生成する。

    これは自動運転開発の構造を変える可能性がある。

    従来は実車を道路へ出し、何百万km、何千万kmと走らせることでデータを集めてきた。

    しかし現実世界では、欲しい事故寸前の場面が都合よく発生するとは限らない。

    AIが世界を生成できれば、「実際に起きた世界から学ぶ」だけでなく、「学ぶ必要のある世界をAIが作る」ことが可能になる。

    前週のZYT-Worldに続き、中国の世界モデル競争は研究段階から、自動運転開発の実用ツールへ入り始めている。

    さらに清華大学のiDriveVLAは別の問題を示した。

    AIVは正しい走行軌道を生成できないのではない。

    多数生成した候補の中に正解はすでにある。

    問題は、その中からどれを選ぶかである。

    自動運転AIのボトルネックは「行動を作る能力」から「行動を評価する能力」へ移ろうとしている。

    AIはクルマから工場、そして道路へ

    Physical AIの拡張も止まっていない。

    理想汽車は700台以上のロボットを導入した工場について、それだけでは「智能工場ではない」と説明した。

    ロボットの数や自動化率が重要なのではない。

    工場が自ら感知し、判断し、実行し、その結果をフィードバックして次の判断へつなげる。

    つまり工場そのものを、一つの巨大なAIシステムとして作ろうとしている。

    さらにVLAは、クルマから道路へ出始めた。

    香港科技大学(広州)などの研究チームが開発したVLALightは、道路映像をAIが見て交通状況を理解し、そのまま信号制御へつなげる。

    クルマが道路を理解して動く。

    道路側もクルマや歩行者を理解して動く。

    AIVが賢くなるだけでなく、都市インフラそのものがAI化すれば、「自動運転車対道路」という区別さえ薄れていく。

    前週まで見えてきたPhysical AIは、今週、工場と都市交通へさらに広がった。

    中国市場の成長モデルも「国内販売」から離れ始めた

    一方、9月販売実績からは、中国メーカーの成長構造そのものにも大きな変化が見える。

    BYDは1~9月累計では前年を約4%下回った。

    ところが9月の海外販売は約18万台に達し、乗用車・ピックアップ販売の約39%を占めた。

    国内の減少を海外の急拡大で補う構造が鮮明になっている。

    奇瑞はさらに極端である。

    1~9月販売は約10%増だが、輸出は約66%増。

    国内販売が縮小する一方、海外とNEVがグループ全体を成長させている。

    零跑は9月だけで10万台を突破し、1~9月では約69%増。

    海外輸出も15万台を超えた。

    その海外展開を支えているのがStellantisである。

    零跑の欧州販売・サービス網は1020拠点、36カ国まで広がり、提携は「販売網を借りる」段階から、販売実績と現地生産へ進んだ。

    ここでも同じ構図が見える。

    零跑は世界中に自前の販売会社、工場、物流網をゼロから作っているわけではない。

    Stellantisの既存資産を利用しながら、自らの車両、電動化技術、電子アーキテクチャーを世界へ持ち出す。

    つまり海外進出でも、「全部自前」より何を自社で握り、何を既存プレイヤーから借りるかが競争力になっている。

    その一方、欧州では新たな対中通商措置の議論も浮上した。

    中国車の海外展開が完成車輸出から現地販売、現地生産へ進むほど、欧州側との摩擦もより複雑になる。

    AIV時代の競争は「全部持つ」ことではない

    今週のニュースを並べると、一見すると矛盾している。

    OEMは電池を自社開発する。

    LiDARも作る。

    ADASコントローラーも作る。

    AIチップまで作る。

    ならば中国自動車産業は、巨大な垂直統合へ向かっているように見える。

    ところが同時に、理想は自社設計電池を専門メーカーへ製造委託する。

    Huaweiは「全部自社開発する方が本当に安いのか」と問いかける。

    DeepRouteのAIはOEMブランドの奥へ入り込む。

    小鵬は自社チップを他社へ売ろうとする。

    HuaweiとSERESは主導権を調整しながら協業を深める。

    一汽と広汽は会社を統合せず、必要な機能だけを共有する。

    零跑はStellantisの世界販売網と生産基盤を使う。

    矛盾しているようで、実際には同じ方向を向いている。

    自社と他社の境界を固定しない。

    必要なら内製する。

    必要なら外部企業を使う。

    自社で作ったものが競争力になるなら外販する。

    他社と重複する機能は共有する。

    そして最終的な製品、ユーザー体験、データ、システム統合の主導権は手放さない。

    これは従来型の自動車産業にあった、OEM、Tier1、半導体メーカー、ソフトウェア会社、電池メーカー、販売会社、という固定的な産業階層とはかなり違う。

    AIVでは、AI、チップ、センサー、電池、ソフトウェア、クラウド、車両制御が密接につながる。

    どこか一つだけを切り離して最適化することが難しくなる。

    だからOEMはサプライヤー領域へ入り、サプライヤーは完成車の機能定義へ入り、テクノロジー企業はブランド運営にまで入り込む。

    前週まで、中国自動車産業ではPhysical AIの技術基盤がつながり始めていた。

    今週見えてきたのは、その技術を支える産業構造そのものの組み替えである。

    競争力を決めるのは、すべてを自分で持っている企業ではない。

    何を自分で握るべきかを判断し、世界中の技術、企業、工場、販売網を一つの製品へ統合できる企業である。

    2026年9月28日~10月4日の中国自動車産業は、AIV時代の「自社開発」と「分業」の意味を作り直し始めた一週間だった。

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    急速に進む中国のCASE(Connected&Cabin,Autonomous,Shared&Service,Electric)やAIについての最新情報。2018年から1日1本以上のレポート配信。毎朝8:00日刊中国モビリティレポートと適時号外レポート

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